建設業は、各人が「手に職」を持っているため、独立する傾向が高い業種と言えます。サラリーマンの束縛から自由になり、自分の思うとおりに仕事ができるのは、夢のある話です。しかし、無計画に独立し、失敗して後悔しているケースも多く耳にします。この記事では「建設業の独立」に関して、その準備段階から実際の営業、リスク管理まで解説しています。この記事を理解することで、自信を持って独立への一歩を踏み出すことができます。建設業で独立する前に理解しておくべきこと最初に、独立のメリット・デメリットを整理します。<メリット>・会社の指示ではなく、自分の思うように働ける・サラリーマンより手取りが多い・仕事を選べる・自由な働き方ができる<デメリット>・確定申告など事務作業が発生する・自分で営業する必要がある・仕事がなくなるリスクがある・健康を害すと収入が途絶える次に「よく理解しておくべき2点(経営形態の違い、建設業許可の取得)」を、以下に詳述します。経営形態の違いがある建設業で独立する場合の経営形態の主なものは、1.個人事業主になる(独力)2.個人事業主になる(フランチャイズ)3.会社を興すの三つがあります。個人事業主になるためには、「税務署へ開業届を提出する」だけです(開業届については後述します)。フランチャイズに加盟すれば、「ブランドを使用できる、部材を低コストで仕入れできる、営業のサポートが受けられる、仕事を紹介してもらえる」などのメリットがあります。半面、加盟金やロイヤリティの支払いが義務付けられます。会社を興す(法人を作る)ためには、「定款作成、法人登記」などの作業が必要で、司法書士に依頼します。当然費用も発生します。建設業の許可を取得するかどうか【建設工事の完成を請け負うことを営業するには、その工事が公共工事であるか民間工事であるかを問わず、建設業法第3条に基づき建設業の許可を受けなければなりません。ただし、「軽微な建設工事」のみを請け負って営業する場合には、必ずしも建設業の許可を受けなくてもよいこととされています。】(国土交通省)したがってある程度以上大きな工事を行うためには、建設業許可の取得を目指すことになります(建設業許可の取得について後述します)。建設業の独立に向けて事前に準備すべきこと建設業で独立する場合に準備すべきもののうち、「事務回り」の事項について説明します。独立というのは言い換えれば「事業を興すこと」です。建設の作業以外に、事務回りを含めて、たくさんの「考えるべきこと」が発生します。これを一つずつクリアしていくことで、「成功した『一国一城の主』」になれるのです。では、具体的に「開業資金の準備」「事務所や備品の準備」「屋号の銀行口座の準備」についてみていきます。開業資金の準備まずは開業資金です。いくら必要なのでしょうか。個人事業主で、最低限必要な工具などを有している場合は、ゼロでも可能かもしれません。しかし営業を始めていくと、部材の仕入れ払いが売り上げ回収より早く来るので、その間の手持ち資金は必要です。また、従業員を雇う場合は、売り上げ回収できるまでの給料分を確保しておく必要があります。資金に余裕がない場合は、日本政策金融公庫の新規事業資金の融資について相談してみてもいいでしょう。事務所や備品などの準備開業資金の項目でも言ったとおり、独立当初のお金は貴重です。したがって独立するときの事務所や備品には、できるだけお金をかけない方法をお勧めします。事務所を自宅にした場合、電気代や暖房用灯油代など、事業とプライベートの両方で使うものに関して、事業で使う割合を事業用経費とすることができます(これを「家事按分」と言います)。 その他開業に必要な備品は、パソコン、ネット回線、営業車両、工具、資材などです。屋号の銀行口座の準備個人事業主として独立するとき、屋号をつけて営業したい場合があります。そして、銀行口座も事業用として「屋号つき銀行口座」を別に準備したい場合もあります。たとえば「リフォームYAMADA 山田一郎」という感じです。この場合は、税務署に提出済みの「開業届」(税務署受付印のあるもの)を添付して、金融機関に口座開設を申し込みます。まずは取引先の金融機関に相談し、難しい場合はネット銀行なども検討しましょう。建設業で独立するまでのながれとは建設業で独立するためのフローを説明します。当然、業界の知識や技能・スキルが無ければ、独立など、夢のまた夢です。このセクションでは、開業準備から、開業手続きとそれにまつわる許可の取得、さらに営業活動について説明していきます。「やるべきことが多すぎる」と、ゲンナリするかもしれませんが、何事も基本が肝心。最初にこまごまとしたことをキチっとやっておけば、成功の確率が跳ね上がるのです。経験を積む独立には「ウデ」が必要です。つまり、職人としてのスキルや経験のことです。自己満足でなく、周囲からも「良いウデだ」と思われるくらいでないと、独立は難しいかもしれません。客観評価のために、資格を取得するのも一つの方法です。たとえば「専任技術者」(次章で説明します)になるための資格は、独立する上でほぼ必須と言えます。現在、建設会社で働いて将来独立を考えている人は、サラリーマンのうちにたくさんの資格を取得しておきましょう。専任技術者になるための資格の取得ある程度大きな規模の工事を請け負うためには、建設業許可の取得が必要です。そして建設業許可の取得のためには、専任技術者が会社にいなければなりません(個人事業の場合は、自分が専任技術者になる必要があります)。そして専任技術者になるために必要な資格は、各種施工管理技士、建築士、大工、左官、とび工などです。また資格取得でなく、10年以上の実務経験により専任技術者になる方法もあります。開業資金や備品、事務所の準備経験を積み、資格を取得したら、開業資金、備品、事務所の準備をしましょう。開業資金は前述したとおり、融資なども利用しながら、当面の営業が継続できる金額を準備します。机や電話、FAX、パソコン、インターネット回線など備品などについては、開業時の費用を節約するため、購入ではなくリースも検討しましょう。もちろんすでに手持ちのものがあれば、そのまま使うのがお勧めです。事務所については、自宅を利用するのが安上がりですが、賃貸にした場合、その賃料は経費にできます。開業届の提出個人事業主として「個人事業の開業届」を税務署に提出します。以下の形式です。https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/pdf/h28/05.pdfまた税務署に提出して受付印をもらったら、それを保管しておきます。屋号つき銀行口座開設や助成金申請時に必要になるからです。また、開業届と同時に、「青色申告承認申請書」も提出しておきます。年が明けると確定申告が必要になりますが、「青色申告控除」が利用できるなど、税金面で有利になります。建設業の許可の取得建設業の許可を取得すると、1件500万円以上の工事を請け負うことができます(建築一式の場合は、1,500万円以上の工事)。これは個人・法人にかかわらずです。もちろん建設業の許可が無くても、500万円未満の軽微な工事は請負できるのですが、元受けからの要請や工事単価の高騰などにより、建設業許可取得の必要度は高まっています。また、取得の条件の一つに「自己資本500万円以上」という項目もあるので、計画的にお金を貯めましょう。仕事を受注するさて、ここまで準備が整ったら、いよいよ営業活動です。直接消費者から受注できるルートがない限り、元受け(ゼネコン、ハウスメーカー、それらの1次2次下請けなど)から仕事を受ける必要があります。サラリーマン時代のツテや人脈をたどりながら、営業活動を行います。自分が勤務していた会社から仕事を受ける、というのもアリでしょう。資格取得と同様に、会社員時代に将来を見据えて、人脈やつながりを構築しましょう。建設業で独立する時の注意点とはさてここまで、建設業の独立において事前に考えるべきこと、事前準備、開業に向けての具体的フローなどについてみてきました。だいぶ独立のイメージが膨らんできたことと思います。ここからは、独立するときの注意点を説明していきます。開業してから「あっ、こんなはずじゃなかった」などと後悔しないように、気になる点はすべてつぶしていくことで、成功確率を高めるのです。明るい未来をその手につかみましょう。営業活動も自分で行うサラリーマン時代のように、仕事が天から降ってくる、ということはなくなります。自分が社長なのですから、営業活動を含め、すべて自分の責任で行う必要があります。営業しない⇒仕事がない⇒収入もない⇒破綻する…ということになりますので、言うまでもないことながら、営業は非常に大事です。サラリーマン時代の会社から仕事をもらうケースがあり、それはそれで結構なことなのですが、1社に頼り切ってしまうと、その仕事が切られたとき事業が立ちいかなくなります。複数の取引先を開拓しましょう。事務処理を忘れずに行うサラリーマン時代は、職人としての自分の仕事だけしていれば良かったわけですが、独立すれば事業としてさまざまな「やるべき事」が現れてきます。営業のほかにも、資金繰り、金融機関との交渉、支払日管理、手形の期日管理など、やるべき事は山積みです。これらを「社長」として回していかなくてはなりません。さらに年が明けると「確定申告」が待っています。最近は安価なソフトも販売され、以前よりは手軽に処理できるのですが、その前に日々の書類(領収書など)が揃っている必要があります。どんぶり勘定でやっていると、あとでしっぺ返しをくらいます。怪我や病気など収入が減るリスクもあるサラリーマンの場合は、仕事でけがをした場合、労災で対応します。休業が長引いた場合でも、労災保険から保険金(休業補償給付)が支給されるので、日々の生活は何とかなります。これが個人事業主になると、原則として労災は加入できません。したがって仕事でけがをした時には、(仕事の収入もなくなるので)途端に生活が窮地に陥ります。そのようなケースも考慮し、民間の保険に加入するなど、月々の保険料とのバランスを考えながら、検討しましょう。【まとめ】技術力を身につけ、準備をしっかりすることで建設業の独立を成功させよう!ここまで「建設業の独立」をキーワードに、解説してきました。建設業界は、そもそも現在人手不足ですから、独立するには良いチャンスなのかもしれません。しかし記事の中でも述べたように、無計画、あるいは不十分な準備で独立すれば、失敗の可能性が高まります。せっかく独立するのであれば、成功するように、この記事を参考にしながら準備しましょう。そして現在サラリーマンで将来の独立をお考えの方は、資格取得の勉強をする、資金を準備する、人脈を構築する、など、将来に向けての行動を起こしましょう。